ヒグマの選択
第58回 ヒグマの選択 「こんな生活がしたかったんだ。本当に助かったよ。作物をあさる事もしなくていいし、冬眠の準備もいらない。ここは本当に落ち着くよ」ヒグマは2重の鉄格子の奥から僕に話しかけて来た。顔だけ白いヒグマとして動物園でも人気者の彼は、すっかりここでの暮らしに満足しているようだ。...
View Article受取人不明
第60回 受取人不明 僕の地方では、船乗り家業は長男が継ぐと決まってる。まだ幼い頃から船の手伝いをさせられ、15歳になると初めて船に乗る事を許される。最初は全ての雑用をこなすだけだけど、慣れてきた頃に任されるのが錨を下ろす仕事だ。船長の指示通りの場所に迅速に錨を下ろし、縄で船を固定する。一見簡単な様で、実は一番責任重大な仕事と言っても良いくらいだ。...
View Article最後の記憶
第61回 最後の記憶 A「撃たれたのは1人だけのようだ」 B「被害者はあそこで携帯持ったまま倒れてる男か。まったく毎週こんな事件が起きてるな」 C「どうも遅れてすいません、来る途中に辺りで聞き込みしましたが目撃者はいません。通報者もすでに立ち去ったようです。またギャング同士の闘争でしょうか」 A「まあそんな所だろう。死体安置所が満員にならなきゃいいが」...
View Article鮮やかなモノクローム
第63回 鮮やかなモノクローム 「お前が好きそうなもんがあるぞ」と実家にいる父親から連絡があった。祖父の親友が所蔵していた祖父の遺品だという。最近その方も亡くなったために、奥さんの計らいで数十年振りに実家に戻って来たのだ。写真を送ってもらうと、それはとても古い手回し映写機だった。骨董に全く詳しくない僕でも古い年代のものだとわかる。せっかくなので僕は久し振りに実家に帰る事にした。...
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第64回 誘惑の先に レストランの入り口に捜査員らしき男達の姿が見えた。目標が私である事は経験上何となくわかる。この状況で私だけ逃げきるのは容易いが、問題は彼女だ。もし連行されてしまったら、私の裏側を何も知らなくても、しばらく普通の生活には戻れないだろう。もしかしたら何日間も拘束されてしまうかもしれない。...
View Article雨がいつか止むように
第66回 雨がいつか止むように 「あの事故で生きてたなんて本当に奇跡だよ。足を一本無くした程度で済んで良かったじゃないか」 彼と一緒にいた友人はそう言って私を慰める。確かにそうなのかもしれない。事故現場にはTVの中継が来るほどだったし、翌朝の新聞にも彼の事故の事は載っていた。私も、彼の家族も「命が助かっただけで良かった」と思っていた。でも彼にとっては違ったのだ。...
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第58回 ヒグマの選択 「こんな生活がしたかったんだ。本当に助かったよ。作物をあさる事もしなくていいし、冬眠の準備もいらない。ここは本当に落ち着くよ」ヒグマは2重の鉄格子の奥から僕に話しかけて来た。顔だけ白いヒグマとして動物園でも人気者の彼は、すっかりここでの暮らしに満足しているようだ。...
View Article奪えないもの
第52回 奪えないもの 今は占い師をやっている祖父は、若い頃レスリングの選手だったらしい。有名な選手だったのよ、と祖母が教えてくれた。祖父の引退試合の対戦相手が、偶然にも当時祖母が付き合っていた年下の彼氏だったという。...
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